甲状腺と声のかすれの関係は?
声は、多くの器官により調整され、そのなかでも重要な役割を担っているのが声帯です。声帯は気管の入り口にあり、息を吸うときは開き、声を出すときは閉じて振動します。
この声帯を動かしているのが、反回神経です。反回神経は左右に1本ずつあり、脳幹から枝分かれして、喉頭を通り越し、右は鎖骨下動脈、左は大動脈弓を折り返して(反回して)喉頭に入るため、このように呼ばれています。反回神経は甲状腺の背面近くを走行しているため、甲状腺癌が反回神経に浸潤したり、手術により反回神経がダメージを受けた場合、反回神経麻痺(声帯麻痺)を起こします。麻痺を起こすと、発声時の声帯閉鎖がうまくいかず、声がかすれたり、弱々しくなったり、長く続かなくなったりします。そのほか、重度の甲状腺ホルモン低下により声帯にむくみを起こした場合にも、声がかすれることがあります。
ただ、すべての声の変調が甲状腺によるものではありません。声の変調に気付いたらまず、耳鼻咽喉科で声帯など喉に異常がないか診察を受けてみてください。甲状腺と声の変調との関連が疑われるときには当院の担当医にご相談ください。
手術前に体重を減らすようにいわれましたが、どうしてですか?
全身麻酔をかけると意識がなくなると同時に呼吸が止まり、数分もすれば酸素不足から脳障害が起こるため、麻酔中は気管にチューブを入れて人工呼吸を行ないます。
この時、肥満の方は顎の下や喉の中などに脂肪がたくさん付いていて気管にチューブを入れることが難しくなります。きちんと気管にチューブを入れることができても、腹部の内臓に付いている脂肪の重みのため人工呼吸で肺を充分に膨らませることができず、術後肺炎のもとになってしまいます。
万が一、気管にチューブを入れることができなかった場合は、緊急で気管切開を行いますが、その際も首に脂肪が多いと正確な位置が確認しづらく素早く気管切開できない恐れもあります。そもそも、甲状腺が腫れている方は、緊急の気管切開によって甲状腺を傷つけてしまう危険性があるため、できる限り緊急の気管切開は避けなくてはなりません。
肥満の方は高血圧や糖尿病などいろいろな疾病をお持ちになっていることが多く、これらは術後の経過や回復状況を悪くすることも多々あります。安全な手術・麻酔を行なえるよう手術前にはできる限り適正体重に近づけていただくようお願いします。
チラーヂンSは飲み始めると一生飲まないといけませんか?
チラーヂンSは甲状腺ホルモンそのものを製剤にした薬です。甲状腺に働きかけてホルモンを出しているのではありません。そのため、内服を中止すると2週間〜1か月で内服前の状態に戻ります。
甲状腺機能低下症が一過性の場合がありますが、その多くは3〜6か月以内に正常に回復します。そのため、甲状腺機能低下が6か月以上継続して内服を開始するような場合にはチラーヂンSの内服が生涯必要と考えられます。明らかに内服が生涯必要なのは、甲状腺癌やバセドウ病などの手術で甲状腺全摘を行った後や、バセドウ病でアイソトープ療法後の甲状腺機能低下等です。また、内服中の方では、経過中に時々TSHが高値になる方や、徐々にTSHが上昇し少しずつチラーヂンSを増量しているような場合には、症状がなくても内服の継続が必要と考えられます。
一方、内服初期からチラーヂンSの内服量が変わらず、TSHがすぐに低下し正常で推移している場合や、TSHが少し高かったが妊娠希望で内服した場合などには、中止可能かもしれませんので気になるようであれば主治医にご相談ください。
チラーヂンSは、足りていない甲状腺ホルモンを補充しているだけですので長期内服しても副作用の心配はありません。安心して内服してください。
甲状腺ホルモン剤を時々飲み忘れてしまいます。問題でしょうか?
薬は決められたとおりきちんと飲んでいただきたいのですが、実質的には飲み忘れてもあまり問題になりません。
体に必要なホルモンを甲状腺が十分な量を出せないときは甲状腺ホルモン剤を内服して不足分を補充します。この場合、甲状腺本体から出たホルモンと甲状腺ホルモン剤の両方で体に必要なホルモンが供給されています。これはいわばハイブリッド車のエンジンとモーターのようなものです。エンジン単体、モーター単体では力不足でも両方の力を合わせて走る、しかもエンジンの出力が下がったときはモーターがアシストとして必要な力を出すようにしています。
甲状腺も同じで、甲状腺単体では力不足でも甲状腺ホルモン剤を足してあげればあとは甲状腺自体が調節をしてくれます。
甲状腺ホルモン剤が多ければ甲状腺自体が出すホルモンを減らし、少なければ甲状腺自体が、がんばって多めにホルモンを出してくれるのです。ですから甲状腺自体の調節のおかげで少々の甲状腺ホルモン剤の抜けはあまり問題にならないのです。
しかし、甲状腺に余計な負担をかけないためにも、定期的に甲状腺ホルモン剤を飲む方が良いことは言うまでもありません。
抗甲状腺薬内服中の副作用はいつまで注意しますか?
バセドウ病の治療で用いられる抗甲状腺薬(メルカゾールやチウラジール)は、優れた薬ですが副作用の頻度も比較的高いのが難点です。内服開始の際、副作用とその対応方法の説明を受けたと思います。かゆみや軽症の肝障害は内服継続中に改善することもありますが、じんましんや黄疸が出たらすぐに内服を中止します。副作用が起こりやすい内服開始から3カ月は、2〜3週間ごとに診察と血液検査を受けて注意します。ただし、チウラジールによる血管炎は1年以上内服している人の方が起こりやすいので、数年後でも改めて検尿を確認することがあります。
最も重篤な副作用である無顆粒球症は、生命の危険性があるため、発熱や咽頭痛があれば、すぐに内服を止めて白血球数の検査が勧められています。初期投与量を減らすことで発症頻度は下がりますが、休薬後に内服を再開して発症した症例もあります。内服再開時には副作用のことを改めて思い出して下さい。最近、特定の遺伝的なタイプで無顆粒球症が発症しやすいことが同定されたので、将来は事前に副作用が出やすいかを調べて、内服すべきか判断されるかもしれません。それまでは患者様も医師も抗甲状腺薬の副作用には、油断せず気をつけましょう。
甲状腺の細胞診ってどんな検査なの?
細胞診とは、甲状腺に結節が見つかった場合、その結節が良性なのか悪性なのか、手術した方がいいのか、放置していても良いのかを調べる検査です。実際には、細い針を結節内に刺し、細胞を採取して顕微鏡で調べます。場合によっては、治療を兼ねて結節の中に貯まった水を抜く(排液)こともあります。甲状腺は首の前にありますので、〝首に針を刺す〞ということで、怖い印象を受けると思いますが、超音波で結節を確認しながら検査しますのでとても安全ですし、針は採血に用いるものと同じです。針を刺している時間はほんの数秒です。痛みは数分から数十分程度持続します。検査後は15分間、針を刺した部位を圧迫するだけで十分です。入浴や食事は問題ありません。ただし、当日は激しい運動を控えた方が良いです。
細胞診で採取した細胞は、細胞検査士や細胞診専門医という専門家によって観察され、診断が行われます。診断がはっきりしない場合や細胞がたくさん取れていなかった場合には、もう一度検査をしなければならないこともありますので、ご了承ください。
細胞診についてご質問があればいつでも担当医へお気軽にお問い合わせください
バセドウ病の治療を受けています。海藻類は制限の必要がありますか?
バセドウ病の治療にヨウ素制限は必要ないですよ!
海藻類、特に昆布は大量のヨウ素を含みます。外国からの報告をもとに、ヨウ素の過剰摂取は抗甲状腺薬による甲状腺機能の正常化を遅らせると以前は考えられていました。しかし当院の検討では、抗甲状腺薬治療中のヨウ素制限の有無は治療効果に影響しませんでした。
日本はヨウ素摂取量が多い国です。もともとのヨウ素摂取量によって甲状腺の病気の種類や、治療効果に違いがみられることが知られています。日本ではバセドウ病治療にヨウ素を用いることもあります。ヨウ素充足地域に分類される日本においてはヨウ素制限がバセドウ病の治療に有用ではないようです。さらに、海産物を食べ、出汁を用いる習慣のある日本では厳密なヨウ素制限を継続することはそもそも困難です。したがって、甲状腺機能低下症の場合と異なり、通常の抗甲状腺薬治療中に海藻類を制限する必要はないと考えられます。
インフルエンザの予防接種は受けても大丈夫?
ほとんどの方は問題なく受けられますよ。
甲状腺疾患で治療中あるいは経過観察中のほとんどの方は、問題なく予防接種を受けてもらうことができます。ただし甲状腺機能亢進や機能低下が著しく、体調不良の時期は予防接種を受けるには適しません。また、バセドウ病で内服治療開始後約2カ月間は、バセドウ病治療薬副作用による発熱と予防接種の副反応による発熱の区別が難しくなる可能性があるため、この時期の接種は避けていただくのが無難でしょう。また、ステロイド治療中の方は予防接種の効果が期待できない場合があります。ご心配な場合は担当医に相談して下さい。
予防接種が適さない状態の方は、インフルエンザ流行時期に人混みへ行かない、外出時はマスクを着用する、帰宅したら手洗いうがいをするなどして感染予防を心掛けましょう。
服薬中に風邪薬を飲んでもいいの?
はい、一緒に飲んでも大丈夫です。
市販の風邪薬の注意書きには「甲状腺機能障害と診断された人は医師に相談してください」と記載されています。甲状腺の病気で通院中だと服用できないのか?と心配になりますが、風邪薬の成分で、チラーヂンやバセドウ病の薬との飲み合わせが悪いものはなく、一緒に服用できます。
風邪薬で注意が必要なのは、ヨウ素や自律神経を刺激する成分が含まれている場合です。ヨウ素はうがい薬などに含まれ、橋本病の場合は甲状腺機能が低下することがあります。風邪のときなどの数日間の場合には問題ありませんが、習慣的な使用は避けましょう。
自律神経を刺激する成分(エフェドリン、ジプロフィリンなど)は、漢方薬、咳止めなどに含まれ、甲状腺機能が正常な方は心配なく服用できますが、バセドウ病で甲状腺ホルモンが正常化していない方は動悸や息切れを感じる場合があります。
花粉症の薬を飲んでも大丈夫?
はい、併用しても大丈夫です。
花粉症の治療に使われる薬でいちばん多いのは、抗ヒスタミン薬というタイプのお薬です。この薬は花粉症だけでなく、例えばじんましんなど他のアレルギー疾患に対しても使用されます。バセドウ病や甲状腺機能低下症の薬でも時々じんましんが出る場合がありますが、そのような際にもよくこの抗ヒスタミン薬を併用してもらいます。一緒に内服しても問題ありません。
花粉症の症状の強い方で、ステロイドを含む薬を処方されることがあります。ステロイドの量や服用期間によって軽度の甲状腺ホルモン異常がみられる場合がありますが、花粉症の治療の必要性を考慮しながら甲状腺の治療も行っていきますので、異常がみられたからといって服用をやめる必要はありません。花粉症が悪化すると甲状腺の状態も悪くなることがありますので、決して自分で判断せず、気になることがあれば主治医の先生に相談してくださいね。
手術の前は入院前から禁酒した方がいいのでしょうか?
習慣的な飲酒は控えるようにしましょう。
病院に初めて来たときや、手術が決まった際に、これまでの病歴(既往歴)やご家族様の病気(家族歴)などに加え喫煙歴や飲酒歴を聞かれることが多いと思います。
喫煙はもともとある甲状腺疾患の状態をさらに悪くしたり、手術の際の全身麻酔に関連する合併症のリスクが増加したりしてしまうことが懸念され、手術後の創傷治癒においても悪影響を起こしてしまうことが考えられます。
喫煙と比較し飲酒歴が甲状腺や手術に及ぼす影響は比較的軽いかもしれません。しかしながら習慣的な飲酒は肝機能を悪くすることは周知の事実であると思います。手術の際はさまざまな薬剤を用いますので、肝機能が異常と判断された場合は改善を認めるまで手術を延期しなければならないことがあります。そのため手術が決まった際には、習慣的に飲酒される方は控えていただくようにお願いします。
お薬の飲み方を誤ってしまったら?
1日の服用回数に合わせて対処しましょう。
甲状腺の病気で用いられるメルカゾールやチラーヂンSは、半減期が比較的長いので、飲む量を間違えても急激に効き目が変わることはありません。ただし、飲み方が不規則になり過ぎると効き目に影響しますので注意しましょう。
■飲み過ぎた場合
1日1回服用の方…次回から通常量を服用
1日2~3回に分けて服用の方…一度に2回分
を内服した場合、次回分は服用せず、その次から通常量を服用
■飲み忘れた場合
1日1回服用の方…その日中であれば気付いた時点で1回量を服用
1日2~3回に分けて服用の方…気付いた時点で1回量を服用し、次回から通常の時間帯に服用。翌日に気付いた場合は、前日分は内服せず当日分だけを服用
妊娠中でチラーヂンSを服用されている方は、胎児の成長に甲状腺ホルモンは不可欠ですので、特に飲み忘れには気を付けてください。