甲状腺濾胞(ろほう)がん (こうじょうせんろほうがん)
病気の特徴
甲状腺がんのひとつで、甲状腺を構成する濾胞(ろほう)細胞から発生する悪性腫瘍です。甲状腺がんは他に甲状腺乳頭がん、甲状腺未分化がん、甲状腺髄様がん、悪性リンパ腫がありますが、全体の約5%を占めるのが甲状腺濾胞がんです。顕微鏡で観察するとがん細胞が集まって「濾胞」という分泌腺のような形をつくっているので、この名前がつけられています。
原因は不明です。発症する年代は幅広く、男女比では女性に多い傾向にあります。
通常はゆっくりと発育し、性格もおとなしいものが多いです。乳頭がんと違って、周囲の首のリンパ節に転移することは少ないですが、まれに肺や骨に転移することがあります。
10年生存率は90%以上と、生命予後は比較的良好な病気です。
ステージはIからIVまであり、ステージが上がるほど病気が進行していることになります。当院の濾胞がん症例では、術後10年で甲状腺がんのために亡くなる確率(がん死率)は、ステージIからステージⅢで2%でした。 ただし、術前に遠隔転移のあるステージIVでは、65%まで上がります。
自覚症状と診断・発見
自覚症状は特にないことが多く、大きくなると首にしこりを感じる程度です。そのため、自覚症状をきっかけに発見されることは少ないのが実情です。濾胞がんは、良性腫瘍である濾胞腺腫との区別が手術前には難しいため、二つを合わせて濾胞性腫瘍と呼んでいます。血液検査、超音波検査、細胞診などを行い、濾胞がんの可能性が高いと診断された場合には、手術で腫瘍とともに甲状腺の半分または全てを切除し、病理組織検査で最終診断を行います。
次のいずれかの所見が確認されれば濾胞がんと診断します。
•腫瘍を包んでいる膜(被膜)を腫瘍細胞が破って浸潤している。
•腫瘍周辺の血管内にまでに腫瘍細胞が侵入している。
なお、濾胞がんを疑って手術が考慮されるのは以下のような所見です。
・腫瘍が触診で硬く、表面がデコボコで不整の場合
・細胞診で濾胞性腫瘍(あるいはその疑い)と診断され、悪性の可能性がある場合
・超音波検査で腫瘍内部が充実性で、正常甲状腺組織との境界線がきれいな曲線ではなく、不整な場合
・経過観察中に腫瘍が大きくなっている場合
・腫瘍の大きさが3cm以上の場合
・血液中のサイログロブリン値が非常に高い場合(例えば1000ng/mL 以上)
・すでに肺や骨に転移している腫瘍の病理組織検査で、甲状腺濾胞がんの転移と診断されている場合
治療
悪性の可能性があると診断された場合、まず、手術で腫瘍とともに甲状腺の半分または全てを切除します。切除した組織の病理組織検査で最終的に濾胞がんと診断された場合、悪性度に応じて、放射性ヨウ素内用療法をお勧めすることがあります。放射性ヨウ素内用療法を施行するためには、甲状腺が全て摘出されている必要があります。正常甲状腺が残存している場合には、放射性ヨウ素内用療法の前に、残存甲状腺を手術にて切除します。
入院日数は約1週間を標準としていますが、術後経過などにより異なる場合があります。術後は定期的に受診し、体調の変化や再発の有無を確認します。10から20年ほどの間は、再発の可能性があるため、長期にわたる経過観察が必要です。
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