甲状腺髄様(ずいよう)がん (こうじょうせんずいようがん)
病気の特徴
甲状腺髄様がんは甲状腺がんの中の1つです。甲状腺がんは他に乳頭がん、濾胞がん、低分化がん、未分化がん、リンパ腫がありますが、髄様がんは全体の約1%程度とまれな病気です。一部では遺伝性による発症が見られるため、この場合では血縁者についても特別な注意が必要です。甲状腺がんの大部分を占める、乳頭がんや濾胞がんは、甲状腺ホルモンを作る濾胞細胞が変化してできるがんです。一方で髄様がんは、カルシトニンと呼ばれるホルモンを分泌する傍濾胞細胞が変化してできるがんで、性質が大きく異なります。
髄様がんでは約2/3が原因不明ですが、約1/3が遺伝性です。遺伝性の場合は「常染色体顕性(優性)遺伝」と呼ばれ、血縁者は1/2の確率で同じがんができる可能性があるため、遺伝子検査が推奨されます。
また遺伝性の場合、髄様がんの他に褐色細胞腫(血圧が非常に高くなる副腎の腫瘍)や副甲状腺機能亢進症(血中カルシウムが高くなる副甲状腺の異常)を合併したり、分厚い唇や細くて手足の長い体型などの身体の異常を伴うことがあり、これらを多発性内分泌腫瘍症2型(MEN2)といいます。
ステージはIからIVまであり、ステージが上がるほど病気が進行していることになります。当院の髄様がん症例では、術後10年で再発する確率がステージI からIII で2%で、術後10年でがんの進行のために亡くなる確率(がん死率)は、IからⅢで0%でした。 ただし、がんが周りの臓器や広い範囲のリンパ節に拡がったステージIVBでは10%、術前に遠隔転移のあるステージIVCでは、62%まで上がります。
その他の甲状腺がんについて、詳細は下記コンテンツをご参照ください。
自覚症状と診断・発見
ほかの甲状腺がんと同様、腫瘍が大きくなると首にしこりを感じる程度で、自覚症状は特に見られないことがほとんどです。診断はまず腫瘍に対して、直接針を刺して細胞を採取する細胞診を行います。その結果、髄様がんが疑われる場合には、血液中のカルシトニンやCEAという物質を測定すれば容易に診断できます。
髄様がんと分かったら、合併症の検査、さらには原因になる遺伝子に異常がないかどうかを調べます。
遺伝性髄様がんではRETという遺伝子に変異があることが判明しました。血液を少し採れば、DNAに異常があるかどうか検査できます。ご本人が遺伝性髄様がんであると診断された時は、血縁者の方々も、遺伝子に異常がないかどうか検査を受けられることをお勧めします。そうすれば、将来、同じ病気を発症するかがはっきりと分かり、たとえ今は症状がなくとも、早期に治療を受けることができるからです。また、RET遺伝子変異の型によっては、髄様がんの悪性度を推定することができます。
詳しい内容は、下記のコンテンツをご参照ください。
治療
非遺伝性の髄様がんは、乳頭がんと同様にがんの広がりに応じた範囲を手術で切除します。遺伝性の髄様がんは甲状腺の両側にがんができるので必ず甲状腺を全て摘出し、リンパ節の切除をします。褐色細胞腫がある場合には重症の高血圧の原因となりますので、こちらの手術を先に行わないと危険です。 RET遺伝子診断などで極めて早期の髄様がんが診断された場合、甲状腺は全て摘出しますが、リンパ節の切除は気管周囲のみの小範囲でよいとされています。なお、乳頭がんや濾胞がんはヨウ素を取り込む性質があり、放射性ヨウ素による治療(アイソトープ療法)ができる場合がありますが、髄様がんにはこのような性質はないので放射性ヨウ素によるアイソトープ療法はできません。(特殊なアイソトープ療法を行う場合があります。)
入院日数は約1週間を標準としていますが、術後経過などにより異なる場合があります。術後は定期的に受診し、体調の変化や再発の有無を確認します。長期にわたる経過観察が必要です。
関連記事