2021.02.15

甲状腺ホルモン薬 (こうじょうせんほるもんやく)

  • ヨウ素
  • 甲状腺の病気の治療
  • 甲状腺ホルモン

甲状腺ホルモン剤

甲状腺ホルモン製剤には以下の2種類があります。

合成T4製剤 一般名:レボチロキシンナトリウム(T4水和物) 商品名:チラーヂンS®

口から飲んだT4製剤の70〜80%が小腸から吸収されます。血清T3の80%は吸収されたT4から変化したものなので甲状腺ホルモンの補充療法は通常、合成T4製剤だけで充分です。血中半減期(血液中にあるお薬の濃度が半分になる時間のこと)が約7日と長いため、1日1回投与でも血液中のT4濃度は安定しています。また内服を中断しても、すぐには血液中の甲状腺ホルモン濃度が下がりません。
T4製剤は可能なら、起床時か、夕食後2時間以上たった眠前に飲むのが理想的です。T4製剤の吸収をさまたげる薬物との併用には注意が必要です。鉄剤(造血剤)、アルミニウム製剤(胃薬)、コレスチラミン(クエストラン®︎。コレステロールを下げる薬)などです。これらの薬とは同時には服用せず、数時間あけて、別々に服用してください。

合成T3製剤 一般名:リオチロニンナトリウム(T3) 商品名:チロナミン®

口から飲んだ合成T3製剤のほぼ100%が吸収されます。T3は速やかに吸収されるため、内服した後の血中濃度は2〜4時間後にピークに達します。血中半減期は約1日と短いため血清T3濃度は内服後の時間によって変化し、一定ではありません。
 
なお、ブタ甲状腺の抽出物である、乾燥甲状腺剤(チラーヂン末®)は2014年から販売中止となっています。

抗甲状腺薬

日本では、バセドウ病の治療を抗甲状腺薬で始めることが一般的です。これは、抗甲状腺薬(甲状腺のホルモンを合成する機能を押さえる薬)を毎日定期的に服用するものです。抗甲状腺薬には、チアマゾール(メルカゾール®)とプロピルチオウラシル(チウラジール®、プロパジール®)の2種類があります。内服を始めると早い方では1か月、遅い方でも3〜4か月後には血液中の甲状腺ホルモン値が正常になり、症状もなくなってきます。

【この治療で大切なこと】

毎日きちんと忘れず内服すること
定期的に甲状腺ホルモンの値を調べながら適切な薬の量に減らす(もしくは増やす)こと
副作用のチェックを定期的にすること
次第に血液中の甲状腺ホルモン値は正常になり、次に脳下垂体から出ている甲状腺刺激ホルモンが正常となり、そのうち甲状腺刺激抗体が少なくなっていきます。甲状腺刺激抗体が体の中から消えると抗甲状腺薬の中止を考えます。
 
抗甲状腺薬の治療の問題点は、定期的な検査・通院が必要であること、甲状腺刺激抗体がいつなくなるのか予想できないことです。甲状腺刺激抗体が高いまま薬をやめてしまうと、高い確率で再発すると言って良いでしょう。
 
抗甲状腺薬は長期にわたって続けなければなりませんが、きちんと内服して甲状腺ホルモンを正常値に保てば症状もなく、健康な方と全く変わりのない生活(日常生活、運動、妊娠・出産など)ができます。人生において病気のために制限されることは何もありません。

抗甲状腺薬の治療が適当な方

・ほとんど全ての方
・お薬をきちんと飲み、定期的に通院できる方
・甲状腺腫の小さい方
・妊娠中の方

抗甲状腺薬の治療が不適当な方

副作用のでた方は、抗甲状腺薬の治療は不適当となります。
 
詳しい内容は、下記のコンテンツをご参照ください。

β遮断薬

これは、甲状腺ホルモンを減らす薬ではありません。甲状腺ホルモンが非常に多い場合には動悸、手のふるえなどの症状がでてきます。これらの症状を和らげるために使うお薬です。しかし、喘息や重症の心不全がある方は悪化することがありますので使えません。

ヨウ素剤(ヨウ化カリウム丸)

ヨウ素は甲状腺ホルモンの原材料の一つですが、不思議なことにヨウ素を大量に服用すると逆に甲状腺ホルモンの産生がおさえられ、血液中の甲状腺ホルモンの量が減ります。
 
これを利用して、バセドウ病の初期に抗甲状腺薬と併用して使われたり、甲状腺クリーゼやバセドウ病の手術前など、急速に甲状腺ホルモンを下げなければならない時等に使われます。ただし、ヨウ素剤を長期にわたって使っていると効果がなくなり、甲状腺ホルモンが多くなってしまうことがあります(エスケープ現象)。
 
甲状腺の大きさが小さく、副作用のため抗甲状腺薬が内服できないバセドウ病の患者様には、長期間にわたって効果が持続する場合もあります。