甲状腺の病気について (こうじょうせんのびょうきについて)
甲状腺とは
甲状腺は、喉仏(のどぼとけ)のすぐ下にあり、縦・横4cm、重さ15g程度の蝶のような形をした小さな臓器です。健康な状態では、さわってもほとんどわかりません。甲状腺は、ホルモンを産生・分泌する内分泌臓器です。甲状腺ホルモンは、新陳代謝を活発にしたり、心臓の働きや体温を調節したり、子どもの成長を促す作用などがあり、生きていくうえで不可欠です。
甲状腺が病気によって正常に働かなくなると、甲状腺自体の腫れや痛みだけでなく、全身にいろいろな症状があらわれます。
甲状腺の病気の種類
甲状腺の病気は、大きく2つに分けられます。1. 甲状腺にしこりができる病気
甲状腺にしこり(かたまりやコブのようなもの)ができることがあります。小さなうちはほとんど自覚症状がなく、健康診断で指摘されたり、サイズが大きくなってから、ようやく触ってわかったり、ものを飲み込んだ際に違和感があるようになります。しこりには良性と悪性があり、およそ9割が良性と言われています。良性の場合は、サイズが大きかったり、悪性の疑いが強いケースなどを除けば、治療の必要がないことも多いです。
一方、残りの1割にみられる悪性のしこり(腫瘍)のほとんどが甲状腺がんです。甲状腺がんは、増加傾向にありますが、がんの発生が増えたのではなく、いろんな検査の進歩・普及によって今まで診断されていなかったがんが発見される機会が増えたためと考えられています。
● 甲状腺の良性のしこり
● 甲状腺の悪性腫瘍
2022年、日本の甲状腺がん年間罹患数は、1万8600人と予測されています。(出典:国立研究開発法人国立がん研究センターがん情報サービス(Web)「がん統計予測」)全がんの罹患数(101万9000人)の約2%ほどです。男性に比べて、およそ3倍女性に多いがんです。 全がんの5年生存率が64.1%であるのに対し、甲状腺がんは94.7%(出典:同上「最新がん統計」「がん種別統計情報」)と、命にかかわることが極めて少ないがんです。ただし、タイプによっては、一刻も早い治療が必要な場合もありますので、まずは怖がり過ぎることなく病院にかかるようにしましょう。
2. 甲状腺ホルモンの過不足で起こる病気
甲状腺ホルモンの産生や分泌に異常が起こり、全身をめぐる甲状腺ホルモンの量が多すぎたり、少なすぎたりする病気があります。甲状腺ホルモンが過剰になる病気を甲状腺機能亢進症といい、逆に甲状腺ホルモンが不足する病気を甲状腺機能低下症といいます。● 甲状腺機能亢進症(甲状腺ホルモンが過剰になる病気) 主な症状:動悸・息切れ・多汗・体重減少・手の震えなど
【甲状腺機能亢進症の症状があらわれる原因】
● 甲状腺機能低下症(甲状腺ホルモンが不足する病気) 主な症状:顔や手足のむくみ・寒がり・体重増加・倦怠感など
【甲状腺機能低下症の症状があらわれる原因】
頭の最深部にある視床下部、下垂体というところのはたらきで、「甲状腺刺激ホルモン(TSH)」という物質によって、甲状腺が刺激され、全身をめぐる甲状腺ホルモン量に過不足のないよう調節されています。この調節が崩れて、甲状腺機能亢進症や低下症になってしまうのには、さまざまな原因があります。
甲状腺ホルモンが過剰になる病気の代表が「バセドウ病」です。
バセドウ病は、男性の5~7倍女性に多い病気で、特に20~30歳代の女性に多い傾向があります。1000人あたり0.2~3.2人がかかる病気です。
一方、甲状腺ホルモンが不足する病気の代表が「橋本病(慢性甲状腺炎)」です。
こちらは、男性のおよそ9倍と、バセドウ病よりもさらに女性に多い病気です。特に30~50歳代の女性に多く、症状が出ない場合を含めると成人女性の10人に1人程度にみられる決して珍しくない病気であることがわかっています。
また、甲状腺ホルモンをつくる濾胞細胞そのものが一時的に障害をきたす病気に、「亜急性甲状腺炎」「無痛性甲状腺炎」の2つがあります。どちらも、濾胞細胞から漏れ出た甲状腺ホルモンによって、一時的に甲状腺機能亢進症の症状を引き起こします。亢進症の症状が落ち着いた後に、低下症の症状が現れる(通常、数か月で回復)こともあります。
ほかにも、甲状腺にできた腫瘍が甲状腺ホルモンを分泌することで、甲状腺機能亢進症になってしまう「プランマー病」という病気もあり、甲状腺機能亢進症・低下症になってしまう原因には様々なものがあります。
ほかの病気と間違われやすい甲状腺の病気
甲状腺機能亢進症や甲状腺機能低下症の症状は、全身にあらわれることから、原因が甲状腺であることが気付かれにくく、ほかの病気と勘違いしてしまうことが少なくありません。たとえば、自律神経失調症や更年期障害は類似する症状も多く、間違われやすい病気です。
また、倦怠感や無気力になるといった症状から、うつ病と間違われたり、動悸や息切れがみられることから心臓病を疑われたりすることもあります。痩せてしまって悪性の病気を疑われたり、浮腫んで体重が増えることから腎臓病を疑われたりすることもあります。
これらの症状が、甲状腺機能の異常によって起こっている場合には、お薬などで甲状腺ホルモンの量をコントロールすることで見違えるほど改善され、症状があらわれる前と変わらない生活を送れるようになることも多いです。
これまでに行っている治療方法では長い間改善が見られない体調不良がある場合には、一度甲状腺が原因という可能性がないか、専門病院などで検査を受けることを検討してみましょう。
(出典:西川光重、赤水尚史、宮内昭(2022)「甲状腺の病気といわれたら」NHK出版)
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